どんぐりからの手紙 

−最終話−




最終話 めぐり合い

   最近の隆は、化石探しに熱中している為、顔は日焼けして真っ黒です。よく、仲間と共に、秩父方面に化石採集に出かけ、たまには型の良い化石を拾ってきます。それを丁寧に石の中から取り出し、磨きを掛けると、立派な商品に変身し、私の店の片隅に並んでいます。将来は地質学者になって、恐竜の化石を探して歩くのが夢だそうです。そして、毎日、元気に地元の公立高校に通っています。
  パンダの様に白黒のクッキーは、丸々と太っています。名前を呼ぶとぴょんぴょんと寄って来ます。今では、すっかり私の遊び相手になっています。我が家には、亀も二匹増えました。よく餌を食べるミドリ亀です。ここでも餌やりは、すっかり私の役目となってしまいました。

   風の便りによりますと、美紀ちゃん親子は、美紀ちゃんのお母さん、美恵子さんの実家がある岡崎市で親子元気に暮らしているそうです。隆の同級生に届いた美紀ちゃんからの年賀状では、将来、看護士になる為に猛勉強をしていると書いてあったそうです。

   東小学校の関川先生は、転勤で少し遠くの小学校に赴任しました。そこでも関川先生は、自分より年下の教頭や校長と、絶えず意見の対立をして相手を悩ませているそうです。そして、最近は、福祉事務所の人々とボランティア活動を通し、子供たちの虐待防止を呼びかけているそうです。

   大型連休も過ぎ、私は実家の農作業の手伝いから帰って来ていました。私が店で片付けものをしていると、草野球仲間である焼鳥屋の大将が現れました。

大将「よう、剛ちゃん、戻って来たのかい? どうだい、農作業、一段落したのかい?」

剛 「ああ、どうにか区切りがついたから、後は親父とお袋に任せてきたよ。今年は野菜、少し多めに作っておいたよ」

大将 「悪いねぇ、なんせ、去年、剛ちゃんの作った野菜、評判が良かったからね。やっぱ、取立ての新鮮な野菜は違うからね。それにしても、どうやってあんな美味しい野菜が出来るんだい?」

剛 「それは、企業秘密ってとこかな・・・、ところで、皆、元気かい?」

大将 「ああ、変わり無いよ。そういえば、最近、雄二が俺の店によく来るよ。それも彼女連れてな!」

剛 「へー、あいつもとうとう彼女が出来たか!」

大将 「そうなんだよ。どこかで見たことのある女の子だなと思っていたら、よく、練習試合をしているチームに応援で来ていた子なんだよ。ほら、あのブラックタイガースさ・・・」

剛 「そっか、あのチームの応援団、けっこう女の子、多かったもんな。もしかして、あのチームのチアガールかい?」

大将 「ピンポン! その通り! 羨ましいねぇ・・・。雄二たちの楽しそうなところ見ていると、剛ちゃんたちのこと思い出すよ。それにしても、俺たちの付き合いも長くなったよなぁ・・・」

   雄二は、野球の試合中、相手チームの美女応援団からはぐれ出た一人を捕まえることが出来た様です。また、雄二は、旋盤工の職人大会に出場すると言って張り切っているそうです。

斜め向かいに店を出す均ちゃんの八百屋さんが忙しくなっている頃、少年野球でコーチをしていた工藤さんが、仕事帰りに立ち寄ってくれました。

工藤 「森田さん、お帰りになったんですね。野球も始められますね」

剛 「そうですね、でも、顔を出す回数が少なくなりましたよ。工藤さんは、今でも少年野球、見てらっしゃるんですか?」

工藤 「いやぁ、息子が今年から中学生になったもので、私も少年野球から卒業しましたよ」

剛 「なんだ、それは寂しいですね。今度、我々の草野球チームに合流してみませんか? 主な練習日や試合の日は、土日祝日ですので、工藤さんでも参加出来ますよ」

工藤 「それは有難うございます。お言葉に甘えて、今度、顔を出しますよ。ところで、うちの息子が言ってましたが、あの、大沼君と坂下君、中学の野球部では、かなり活躍しているそうなんですよ。ああいう子たちが、どんどん活躍していくってことは、嬉しいもんですね」

   少年野球チームにいた大沼君と坂下君は、同じ中学校に通っています。元気の良い小柄な大沼君は、中学の野球部で正捕手をしているそうです。また、背の高い坂下君は、エースピチャーとなり、大沼君とバッテリーを組んでいるそうです。そんな二人の活躍で、彼らの通う中学は、常に大会では上位に勝ち進んでいるとの事でした。そして、二人は、高校野球の名門校からも誘いが来ていると、仕事帰り、私の店に立ち寄った工藤さんが言っていました。

   私の店がある駅前商店街では、道路整備の工事が始まりました。電線は地中化され、アスファルト舗装であった歩道は、雨水の浸透性のあるインターロッキングに変わります。どんぐり色をした洒落た街路灯の他、どんぐりの木もまんべんなく植えられ、秋には色んな種類のどんぐりが人々を楽しませてくれるでしょう。そして、新たに設置される街路灯には『どんぐり通り商店街』と、名前が刻まれることになっています。

   千葉県の息子さんと一緒に暮らし始めた原本さんは、毎日、海辺で釣りを楽しんでいるそうです。原本さんと同年代の釣り仲間もでき、今度は船釣りにも誘われていると、武田さんに送られたお礼状に書いてあったそうです。

   中山商店のおじいちゃん、店がコンビニに変わっても派手なコンビに服は着ていません。毎日元気に、店でお客さんを迎えています。店には若いお客さんも増え、客層が一気に広がりました。不思議にも、若いお客さんほど、おじいちゃんと話をしています。どれもみんな笑顔です。
「商売、人と人の付き合いが基本だよ」
おじいちゃんは、しゃがれた声で、私にそう話してくれました。

   すでに定年を迎えていた咲子の両親は、暖かなオーストラリアに移り住み、老後を楽しむ予定だそうです。
「君も、もう、咲子のことは気にせずに、自分の人生を楽しみなさい。咲子もきっと、そう願っているよ」
と、遠まわしに言ってくれました。

   私の姉、由美はフィットネスクラブに通っています。そして、「まだ老け込みたくない」と言いながら、すっかり私の店を切り盛りするまでになりました。おかげさまで、私も草野球を楽しめる時間が出来ました。最近、血圧の高めな高田さんに代わって、私が若い者を相手にノック練習をしています。また、農繁期になると、私は年老いた両親の手伝いに行くことが多くなりました。商店街仲間である八百屋の均ちゃんの勧めもあり、最近では「有機栽培」にも挑戦しています。
私は近い将来、店を姉に譲ろうと考えています。義兄も是非、翌年の定年後にはアンティークショップに加わりたいと言っています。そして私は、香絵ちゃんと共に、長野県の実家で農業をすることとなるでしょう。今では毎晩、私と隆の夕食に香絵ちゃんが加わる様になっています。香絵ちゃんの作る料理も、日に日に腕が上がっています。メニューは以前の様なカレーライスばかりではなくなりました。香絵ちゃんを家まで送り届ける道すがら、たまには二人手を繋ぎ、ゆっくりと遠回りして歩くことも多くなりました。

   愛する妻を失った辛さや、母親の愛情を求めたくても求められない悲しさは、百恵先生や姉の由美、香絵ちゃん、真里子さんたちが薄めていってくれました。人間の心を癒してくれる動物たちも感謝の気持ちで愛すると、それ以上の愛で答えてくれました。今、目の前にいる人だから、精一杯の感謝と愛情を注ぎたい。えりちゃんは、我々大人にそんな大切なことを教えてくれました。
   これから隆は、どんな風に成長して行くのでしょうか。四つのドングリを前に置いた咲子の写真は、何気なく目を細めている様に感じるこの頃です。



                                             終


【著者より】
この度は、当作品をお読み頂き、有難うございました。
夢庵壇次郎のホームページ http://www.ne.jp/asahi/muan-danjiroh/jp/
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それでは、また、お会いしましょう。









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